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浅沼太郎(長楽庵)の個人ブログです

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当たり前のことを丁寧に言葉に-池田晶子『14歳からの哲学』

講義で話すときには、事前に伝えたい内容を煮詰めておきます。たとえば社会福祉では「人権擁護」「社会正義」といった言葉が出てきます。私は「権利」を小さく砕いて、どんな形で示せるのだろう。学生に期待しているのは、「人権」についてどう考えてもらうことだろう。こんな自問から準備をはじめます。

池田晶子さんは「人が素手で考え始めるその生(なま)の始まりを伝えるべく」書いたと、あとがきで書いています。「考える」という章からはじまり、「言葉」がつづきます。30のテーマが、6~7ページでまとめられていて読みやすい。それでいてじっくりと考えることを促します。

著者の言葉をかりるなら、私は「考え始める」きっかけづくりを重視しているようです。次のような文章に傍線を引きながら感じました。

言葉の意味がわかるということは、いったいどういうことなのだろう。p.25

どうして言葉はその意味なのか、なんでもいい、ひとつの言葉を選んで、自分の中でゆっくりと、転がしてみてごらん。pp.27-28「言葉[1]」

当たり前のことに気づく、自分で言葉にする

私がイメージする当たり前と、学生のそれは違う。それはそうですよね。では私にとっての「当たり前」を言葉にすることから始めないと、伝わるものも伝わらない。それができたら学生に尋ねます、あなたにとっての「当たり前」は何ですかと。

ここに書きながら、当事者やその家族の話を聴いて「そうだったんだ」と気づく経験に似ているなと思い当たりました。その人の当たり前を聴くと、自分は援助者として「ああ、何も分かっていなかった」と何度も思いました。きっとこれからも思うのでしょう。

私がやっと気づいたのはいろんな「当たり前」があること、援助者として「分からない」という自覚が大事ということです。相手の側に立とうとしたら必要なことでした。

だから学生には、考えて経験して言葉にすることをお勧めしたい。あなたの当たり前を言葉にしてみてください。わざわざやってみる価値はあると思います。

考えるためには、何よりもまず当たり前のことに気がつくことだ。あれこれの知識を覚えるのも大事だけれど、一番大事なことは当たり前なことに気がつくことなんだ。p.31

しょせんは言葉、現実じゃないよ、という言い方をする大人を、決して信用しちゃいけません。そういう人は、言葉よりも先に現実というものがある、そして、現実とは目に見える物のことである、とただ思い込んで、言葉こそが現実を作っているという本当のことを知らない人です。(中略)だからこそ、言葉を大事にするということが、自分を大事にするということなんだ。 p.36「言葉[2]」

14歳からの哲学 考えるための教科書

14歳からの哲学 考えるための教科書

 

あとがき

この記事を書き始めたときは、学生に「言葉にする」お勧めをするつもりでした。書きながら、教員の私は「丁寧に言葉に」しているだろうか? と思いました。タイトルは、私自身に言っています。